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耐水性チオール系硬化剤:Multhiolシリーズの紹介

投稿日:2023/10/04

チオールを配合した接着剤などで高温高湿試験に耐えられなかったことはありませんか?Multhiolを試してください!

チオール系硬化剤の弱点、耐水性

従来のエステル型チオールを扱ったことのある方なら、チオール系硬化剤は耐水性が悪い!という印象をお持ちの方もいるかもしれません。しかしチオール基自体が水に弱いわけではなく、その他の 骨格由来の耐水性によるもの です。
従来のエステル型チオールはその名のとおり骨格にエステル構造を持っているため、過酷な耐熱耐湿試験に耐えられずエステル部分が分解することがありました。これは比較的配合量が多く硬化物の構造に多く組み込まれるエポキシ樹脂配合系で顕著に現れます。エステル型チオールを使用した配合物は常温では困るほどの分解はしませんが、長期の耐久性を想定した過酷な高温高湿試験で良い結果が残せず、高い耐水性能が必要な用途では使用しづらい状況が過去にありました。
この耐水性の弱点を克服するため、 水に強い構造であるエーテル型の骨格をもつチオールを開発 しました。この新しいチオールを「Multhiol」と名付け、『multi(多機能)』に活躍する『thiol』として活躍できることを願っています。
現在Multhiolは「Y-2」「Y-3」「Y-4」の3つの製品があり、この記事ではその評価結果の一部をご紹介します。新しいチオールの性能が期待され、さまざまな用途での応用が考えられます。

耐水性の向上

開発の主目的であった耐水性試験について、差が顕著に出るエポキシ樹脂配合系にて硬化物の煮沸試験を実施しました。

配合
エポキシ当量 (Bisphenol A type):1に対してチオール当量:1となるように混合。そこにAccelerator を0.15%加えた。


エステル型チオールを用いた硬化物は試験後白く濁り、表面が柔らかくなりました。これは水と熱によって架橋して硬化しているエステル構造部分が分解されていると考えられます。試験後の硬化物試験片を切断し断面を観察すると、水と接触する表面部分のみが濁っており中心部分は無色透明を保持していることも確認されました。
一方Multhiol Y-3硬化物は試験後も表面が侵されることなく透明性を保っており、同様の結果がMulthiol Y-4にも見られました。
このことから硬化物中の チオール基の存在が耐水性低下の原因ではない 事が判ります。また エーテル構造を持つMulthiolシリーズが耐水性や耐湿性を向上させる効果がある ことが示唆されます。
耐水性の向上により、防水スマートフォン、防水スマートウォッチ、車載用カメラ(アラウンドビューカメラ)など、耐水性が必要な幅広い電子機器の材料としてMulthiolシリーズの利用が期待されます。これらの用途においても是非ご利用いただければと思います。

煮沸吸水試験
硬化物試験片(φ20mm 厚み1mm)を水に浸透し、6時間煮沸した。その後、流水で30分間冷却しキムワイプで拭いた後、外観を確認した。(JIS K 6911準拠)


硬化物試験片の耐アルカリ性試験についても実施しました。

従来のエステル型チオール硬化物はアルカリ水溶液に浸漬すると、表面が溶解し重量が-3%減少しました。これはアルカリによって、架橋して硬化しているエステル構造部分が硬化物の表面から加水分解(けん化)されていると考えられます。重量が減少していることから、一部溶出するまで侵されている事がわかります。
一方でMulthiol Y-3硬化物は試験後も重量が変わらず、外観も透明性を保持したまま変化がありませんでした。
以上の結果から エーテル構造のMulthiolシリーズは、耐アルカリ性が向上する といえます。耐アルカリ性の向上により、各種レジストインキでのアルカリ現像を行う場合でもチオールを使用できる可能性があります。

耐アルカリ性試験
硬化物試験片(幅10×長さ30mm×厚み3mm)を5%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、25℃で7日間静置した。容器は24時間ごとに静かに揺り動かし、試験液を混ぜた。その後、水で洗浄しキムワイプで拭いた後、重量を精秤し、重量変化率とした。(JIS K 6911準拠)


エポキシ樹脂硬化剤として

上記の耐性に加え、その他の機能については従来チオール硬化剤と同等の性能を発揮します。

反応性




DSCの発熱ピークはエステル型チオールと同等の92~130℃。




ゲルタイム(ホットプレート120℃設定)では、いずれも2分半~5分以内に硬化することを確認しています。

柔軟性
チオールはS由来の柔軟性を付与できることが一般的に知られています。柔軟性、粘弾性特性を確認するため、硬化物の3点曲げ試験とDMAを測定しました。



3点曲げ試験での曲げ弾性率は、試験片を曲げるために必要な力を数値化しています。同じ官能基数で比較するため、Multhiol Y-3に対するエステル型チオールにはTMMPを、Multhiol Y-4に対するエステル型チオールにはPEMPを用いました。
その結果、3官能同士のMulthiol Y-3硬化物とTMMP硬化物、4官能同士のMulthiol Y-4硬化物とPEMP硬化物において、それぞれ同等の結果が得られました。




DMAについてもMulthiol Y-3硬化物、TMMP硬化物ともにTgは変わらず同等の結果となっています。

以上のことより、チオール硬化剤中のエステル骨格をエーテル骨格に変更しても、 同じ官能基数同士では硬化物の柔軟性、粘弾性特性には影響を与えず、チオールにより構造中にSを導入する事で硬化物に柔軟性が付与される ことが分かりました。

アクリレート増感剤として

Multhiolシリーズはアクリレート増感剤としても使用可能で、従来チオール硬化剤と同等の性能を発揮します。

増感性




増感性についてRT-FTIRで、アクリレートモノマーの二重結合部分がどの程度反応しているかリアルタイムにIR測定を行いました。結果、チオールを添加するといずれも増感性は良好で、従来エステル型チオールと同等の評価が得られています。


接着力

チオールは一般的に金属との密着性が上がると言われていますが、基材がプラスチックでも同様に密着性が向上するのか検証しました。被着体基材にPMMAを用い、チオール(Multhiol Y-3、TMMP、なし)を添加した光硬化アクリレート配合物にて接着したものを、接着面に対してせん断方向に引張り、接着部分が破断するときの最大応力を測定しました。
その結果、接着力は従来エステル型チオールと同等の評価が得られました。チオール硬化剤中のエステル骨格をエーテル骨格に変更しても、同じ官能基数同士では硬化物の接着性に影響を与えないことが分かりました。

測定機器:オートグラフ(引張せん断接着強さ)
試験方法:JIS K6850 : 1999準拠
接着基材:アクリル樹脂(メタクリル酸メチルエステル、PMMA)

ただしチオールの配合量が少ない場合、チオール差が出づらいことがあります。チオール配合量が多い配合系の場合ですと、上記のエポキシ樹脂配合系でみられた長所がアクリレート配合系でもみられる可能性が高いです。

光・熱デュアル硬化にもお使いいただけます

上記のようにチオールは光増感剤・熱硬化剤として光及び熱両方の役割を果たします。光でも熱でも硬化反応を示すチオールを使用することで、例えばUV照射により部品を仮固定し、更に熱により光が届かない部分まで完全に硬化させることも可能となります。【光・熱デュアル硬化】
熱に弱い基盤や部品(MEMSなど)に使用する場合でも、チオールの特長である低温硬化性により、 80℃以下の比較的低温にて硬化が可能 となるため、加熱による部品等への負荷軽減が期待できます。

溶解性

チオールとしての溶剤への溶解性は以下となります。

solvent Multhiol Y-3 Multhiol Y-4
Water × ×
Methanol ×
Isopropyl alcohol × ×
Acetone
MEK
MIBK
Cyclohexane

最後に

Multhiolシリーズは、エーテル構造によって従来のチオール硬化物とは一線を画す性能を発揮します。耐水性や耐アルカリ性の向上により、電子機器から産業用途まで幅広い分野での活用が期待されます。
私たちは、さらなる研究と開発によって、新たな材料や技術を提供し、社会への貢献を続けていきます。Multhiolシリーズが皆様のプロジェクトや製品に新たな可能性をもたらすことを願っています。
ご質問やご意見がありましたら、お気軽にお知らせいただければ幸いです。

*本記事は、記載内容を保証するものではありません。

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